不動産広告における違反とは|違反例や処分内容も解説
不動産広告は、見込み顧客に向けて物件の魅力を伝える上で非常に有効な手段です。一方で、宅地建物取引業法や景品表示法など、他業界に比べて厳格な広告規約が定められており、意図せず違反に該当してしまう可能性もあります。
また「広告の成果が思うように出ない」「最新のルールに沿って運用できているか不安」と感じることはないでしょうか。
本記事では、不動産広告で特に注意すべき違反事項から、違反した場合の処分内容、そして適正な広告活動を行うためのポイントまで詳しく解説します。
1.不動産広告に関する主な法令・規約
不動産広告は消費者を保護するための法令・規約で厳しく規制されており、これらを理解しないまま広告を出すと、意図せぬ違反につながるため注意が必要です。
ここでは、不動産広告で特に押さえておきたい代表的な法令と規約を解説します。
宅地建物取引業法(宅建業法)
宅地建物取引業法(以下、宅建業法)は、不動産取引の公正性を保ち、購入者の利益を守ることを目的とした法律です。
業者の免許制度や業務上のルールを定めており、広告においても「誇大広告の禁止」「広告開始時期の制限」などが規定されています。
例えば、未完成物件の広告は、開発許可や建築確認など、工事に必要な許可を取得した後でなければ行うことができません。また、「工事完了予定日」や「引き渡し可能な時期」の記載にも制限があるため、タイミングを誤ると違反となるおそれがあります。
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)
実態より著しく優良・有利であるかのような表示や、過大な景品提供を防ぐための法律が「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」です。
例えば不動産広告では、駅徒歩5分」と記載する場合、公正競争規約・同施行規則に基づき、道路距離80mにつき1分として算出された数値を表示しなければなりません。
消費者の判断を誤らせるような表現は、不当表示として問題視され、行政処分や警告の対象となります。
不動産の公正競争規約
景品表示法に基づき、不動産業界の広告を適正に運用するために設けられた自主的な規約・ルールです。
消費者庁長官と公正取引委員会の認定を受けており、公正取引協議会に加盟する事業者はこの規約・ルールを遵守する義務があります。
不動産公正取引協議会では、不動産広告に必要な表示事項や、使用が禁じられている表現(例:「完全」「最高」「絶対」等)など、詳細なルールが定められています。
2.不動産広告に関する違反事項
不動産広告を制作・運用する上では、法令・規約を理解していないと知らず知らずのうちに違反してしまう可能性もあります。
ここでは、不動産広告の主な違反事項を具体的な事例とともに解説します。
おとり広告
実際には契約できない、または契約する意思のない物件を広告に掲載する行為を「おとり広告」と呼び、宅建業法で厳しく禁止されています。
例えば、すでに契約済みの物件を販売予定戸数に含めたまま広告を掲載し続け、情報更新を怠った結果、おとり広告とみなされるため、広告に記載する内容は常に最新の状態にすることが求められます。
誇大広告
事実と異なる、または実態を著しく超える表現により、物件を過度に良く見せる行為が「誇大広告」に該当します。
例えば、日当たりが良好であると記載されているにも関わらず、実際の物件は日当たりが悪いとされるような場合がこれにあたります。
不当表示(優良誤認・有利誤認)
実際以上に「優れている」または「お得である」と誤認させる表示も禁止されています。前者は「優良誤認表示」、後者は「有利誤認表示」と呼ばれ、いずれも景品表示法の違反にあたります。
(公社)首都圏不動産公正取引協議会の紙上研修第52号によると分譲広告では、新築分譲マンションの広告で特定の住戸だけに採用された「ハイサッシ」を、あたかも全戸の標準仕様であるかのように記載した広告が不動表示事例として公表されています。不動産広告に掲載する情報は、すべて購入判断に影響を与えるものとして、正確性が強く求められます。
不当な二重価格の表示
二重価格の表示とは、販売価格と比較対照価格を併記する手法のことで、「通常価格6,000万円のところ、今なら5,500万円!」のような表現が典型例です。
このような表示を行うには、「通常価格」とする金額に、過去の販売実績など明確な根拠を示さなければなりません。根拠がないまま通常価格として表示すると、不当な二重価格の表示とみなされます。
割引やキャンペーン価格などで二重に価格を表示する際は、表示規約に定められた要件を満たすことが重要です。
予告広告に関する違反
予告広告とは、販売価格や販売予定戸数などが未確定の段階で掲載する広告を指します。販売価格等が未確定のうちは、販売や申し込みの受付といった行為は一切認められていません。
また、予告広告に記載した内容に変更が生じた場合は、必ず本広告においてその旨と変更内容を明瞭に表示しなければなりません。この表示を怠って販売を開始すると違反となります。
販売に関するすべての活動は本広告から開始されるという原則を忘れないようにしましょう。
3.不動産広告の法令・規約に違反した場合のデメリット
不動産広告が法令や規約に違反していた場合、企業は金銭的損失にとどまらず、信用や事業の継続にも深刻な影響を受けます。
ここでは、主な処分内容とその影響について解説します。
行政処分や刑事罰を受ける
宅建業法に違反した場合、監督官庁からの指示処分や、最長1年間の業務停止処分が科される可能性があります。特に、違反内容が悪質と判断された場合は、免許取消処分に至ることもあり、事業運営自体が困難になるおそれがあります。
また、一定の違反行為については、「6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金」といった刑事罰が科されることもあり、景品表示法に違反した場合には、措置命令や課徴金納付命令の対象となることもあります。
違約金の支払いや広告掲載停止の処分を受ける
不動産の公正競争規約に違反した場合、違反の件数や表示内容の程度に応じて、最大500万円の違約金が発生するほか、主要な不動産ポータルサイトへの広告掲載が最低1カ月停止される可能性があります。
集客の要であるポータルサイトへの掲載が止まれば、反響獲得の機会を大きく失うことになり、事業の継続にも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
社会的信用の低下
悪質と判断された違反については、不動産公正取引協議会のWebサイトなどで事業者名や違反内容、措置の概要が公表されることがあります。一度公表されると、企業のブランドイメージが損なわれるだけでなく、社会的信用の低下により、取引先や顧客からの信頼を失う可能性があります。
このような情報は長期間インターネット上に残るため、将来の販売活動や業務提携にも影響を及ぼす可能性もあります。
民事上の契約取り消しや損害賠償請求
不適切な広告によって契約に至った場合、消費者は契約の取り消しや損害賠償の請求を行うことができます。
内容によっては、「詐欺」や「錯誤による契約」とみなされ、契約自体が無効となるほか、民事トラブルに発展することもあります。
4.不動産広告の違反を防ぐために実践すべきポイント
不動産広告における違反を防ぎつつ、効果的な広告活動を行うには、複雑な規約への対応と社内体制の整備が欠かせません。
ここでは、適正な広告を制作する上で押さえておきたい4つのポイントを解説します。
法令・規約を正しく理解し遵守する
まず前提となるのが、宅建業法・景品表示法・不動産の公正競争規約といった広告に関する主なルールを正確に把握し、遵守することです。
これらの法令や規約は、単に違反を防ぐためのものではなく、消費者保護と公正な市場の維持、そして自社の信頼を守るための重要なルールでもあります。広告制作にあたっては、内容をしっかり理解した上で、細部まで丁寧に対応する姿勢が求められます。
必要事項は正確かつ具体的に表示する
所在地、販売価格、規模、交通アクセスといった物件の基本情報は、購入判断に直結する要素であるため、正確かつ具体的に記載する必要があります。
記載漏れや曖昧な表現は、誇大広告やおとり広告、不当表示とみなされます。特に、市街化調整区域や再建築不可物件など、制限のある物件を広告する際は、誰にでも見やすい大きさで明瞭に表示することが義務付けられています。
掲載前に複数人でのチェックを行う
不動産広告に関するルールは細かく、一人の担当者だけですべての誤りを防ぐのは困難です。そのため、広告を掲載する前に、複数人で内容を確認する体制を整えることが重要です。
また、掲載後の広告についても定期的に内容を点検し、情報の更新漏れがないかを確認しましょう。特に契約済み物件の情報がそのまま残っている場合は、意図せずおとり広告となってしまいます。
不動産広告専門の広告代理店に相談する
法改正や規約の解釈に対応し続けるのは容易ではありません。広告表現の適正化に不安がある場合は、不動産広告に詳しい専門家に相談するのも有効な手段です。
不動産業界に特化した広告代理店に依頼すれば、表示内容の確認だけでなく、事前に不適切な表現をチェックし、必要に応じて代替案を提案してもらうことも可能です。
さらに、宅地建物取引士などの有資格者が在籍する代理店であれば、法令遵守を前提に、コンプライアンスと訴求力を両立させた効果的な広告表現を提案してもらえるでしょう。
例えば、不動産広告に豊富な実績を持つ伸和エージェンシーでは、長年の経験を生かし、法令や規約への対応と広告効果の両面から企業を支援しています。
5.まとめ
不動産広告は集客に効果的な手段ですが、宅建業法や景品表示法などの規約に違反すると、業務停止や違約金、信用失墜といった重大なリスクを招きます。
適正な広告運用の基本は、法令・規約を正しく理解し、正確な情報を表示することです。その上で、社内でのチェック体制を整えることも欠かせません。もし不安がある場合は、専門家のサポートを活用するのも有効な選択肢です。
適正かつ効果的な広告運用によって、コンプライアンスと集客成果の両立を目指しましょう。