不動産広告の規制を知る!2022年の規約改正、過去の違反事例も詳しく解説

不動産広告は物件の魅力や特性を伝える上で非常に重要な役割を果たしますが、消費者の誤認を防ぐためその表現にはさまざまな規制がかけられています。
法令や規約に違反することがあれば行政からの指導や処分につながるため、チェック体制を確保することが重要です。また、規制の内容は定期的に更新されます。近年では2022年に表示規約が改正され、あわせて不動産広告に表示すべき内容がかなり大きく変わりました。
本記事では、不動産広告に関連する主な法令や規約、2022年表示規約改正のポイント、実際に起きた違反事例などを紹介し、不動産広告の担当者として知っておきたい実務上の注意点をわかりやすく解説します。
不動産広告の規制に関わる法令・規約
不動産広告は消費者にとって高額な取引に直結するため、誤解を招く表現や誇張された訴求がないよう他の業界以上に細かい表示ルールが定められています。
以下は不動産広告の規制に関わる主な法令・規約です。
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)
景品表示法は、消費者に誤認を与えて実際よりも著しく優良・有利に見せる不当表示や、過⼤な景品類の提供を禁止する法律で、不動産以外の業界でも適用される法令です。
不動産広告においては、例えば「最寄駅から○分」といったアクセスや価格・設備の表示は内容・表現方法次第で規制の対象となることがあります。
不動産広告においては、例えば「最寄駅から○分」といったアクセスや価格・設備の表示は内容・表現方法次第で規制の対象となることがあります。景品表示法に違反した場合、違反行為の差し止め、再発防止策の策定、これらの公示などが要求される「措置命令」や、売上の3%の「課徴金」の対象となります。
宅建業法(宅地建物取引業法)
宅建業法は宅地建物取引業を営む者が適正な運営と公正な取引を行うための法律であり、不動産広告に対しても具体的なルールが設けられています。
例えば取引態様(売主・仲介など)の明示、広告の開始時期の制限、誇大広告等の禁止などが定められており、違反があった場合には業務停止などの行政処分を受けることもあります。
表示規約(不動産の表示に関する公正競争規約)
「不動産の表示に関する公正競争規約」いわゆる「表示規約」は、不動産公正取引協議会が定めた不動産業界の自主規制ルールです。
この規約は⼀般消費者による⾃主的かつ合理的な選択と、不動産事業者間の公正な競争の確保を目的としており、主に景品表示法と宅建業法に基づき広告の表示方法や表現の基準が細かく定められています。
不動産公正取引協議会に加盟している企業はもちろん、景品表示法に基づいた規約のため非加盟の企業も実質的に効力が及びます。
規制の対象となる広告媒体
これらの規制は、新聞・雑誌・パンフレット・折込チラシなどの紙媒体に限らず、WebサイトやSNSなどを活用したインターネット広告にも適用されます。
一般的にインターネット広告は内容の変化が早く、常に最新情報への対応が求められます。
そのため、表示内容の正確性に注意を払うことはもちろん、定期的な内容の更新が大きなポイントになります。
2022年表示規約改正の内容
2022年、表示規約の内容がかなり大きく改正されました。この改正では、消費者に対する情報の透明性と正確性を高めるために交通アクセスや物件情報に関する表記のルールが厳格化された一方で、表現の柔軟性が認められる項目も追加されています。
2022年以前の情報は規約改正の内容を反映していない可能性があるため、情報の正確性には注意しましょう。
以下では、主な改正ポイントを「規制強化」「規制緩和」「その他の変更」に分けてご紹介します。
【規制強化】物件の起点
これまでの不動産広告はマンションやアパートの物件の起点における表記の規定がなく、恣意(しい)的な表記ができる状態にありました。
しかし、この法改正により「建物の出入口」を起点とすることが明文化されたため、消費者は各物件の道路距離および所要時間をより公平な条件で比較することができるようになりました。
また、分譲物件では「最も近い住戸」と「最も遠い住戸」の所要時間の両方を記載することが義務化されました。さらに朝の通勤時の交通を表示することになり、物件から最寄り駅までの徒歩所要時間、朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明示することになりました。また乗り換えを要するときはその旨を明示し、乗り換えを含めた所要時間を表示することが義務付けれています。
このように、物件からのアクセスについてはより現実に即した情報提供が求められるようになっています。
【規制強化】がけ地の表示
以前からあった「擁壁におおわれないがけ上・がけ下にある土地に関する表示」に加え、そのがけ地に建築制限がある場合はその内容も明示することが義務化されました。
【規制強化】インターネット広告の表示項目
新築分譲・中古の住宅・マンション、賃貸物件のインターネット広告の必要な表示事項に「引渡し可能年月(賃貸物件においては、入居可能時期)」、分譲物件では「取引条件の有効期限」といった記載が義務化されました。
顧客の情報収集行動の変化により、インターネット広告における透明性の確保に向けた取り組みが加速しているといえるでしょう。
【規制緩和】二重価格表示
値下げ前と後の価格を併記する「二重価格表示」については、これまでの基準では、「値下げの3カ月以上前に公表され、かつ、値下げ前の3カ月以上にわたり継続して公表されていた価格」が比較対象として認められていました。
しかし表示規約の改正に伴い、「値下げ直前の価格」かつ「値下げ前の2カ月以上にわたって実際に販売のために公表していた価格」であれば表示可能となりました。
そのため、実務における運用は以前より柔軟になっています。
【規制緩和】未完成物件の外観写真の使用基準
これまでの規定では、広告に使用できる外観写真は「取引対象の建物と規模、形質及び外観が同一のもの」に限られていましたが、2022年の改正により「取引する建物を施工する者が過去に施工した建物であって、構造、階数、仕様が同一で、規模、形状、色等が類似する建物の写真」も使用可能となりました。
これにより未完成物件でも視覚的に魅力を伝えやすくなりましたが、誤認を避けるためには「実際の物件ではない」旨、および取引する建物と異なる部位を明記することが求められます。
【規制緩和】学校・商業施設への徒歩時間
物件周辺の学校やスーパーなど、生活利便施設の案内において、従来は「距離」のみが表示の対象でしたが、改正後は「徒歩による所要時間」も表示可能となりました。
消費者目線では、より具体的かつ生活実感に即した情報提供ができるようになり、比較検討がしやすくなっています。
【規制緩和】本広告の実施方法が柔軟化
予告広告の後に行う「本広告」については、以前は同じ媒体での掲載が義務づけられていました。しかし、今回の改正により、インターネット広告のみでの本広告実施も可能となりました。
ただし、この対応を行うには予告広告の段階で「インターネットサイト名(アドレスを含む)」と「その掲載予定時期」をあらかじめ明示しておく必要があります。
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【規制緩和】予告広告・シリーズ広告の対象
新たに「一棟リノベーションマンション」が、予告広告およびシリーズ広告を実施できる物件の対象に加わりました。一棟リノベーションマンションで予告広告もしくはシリーズ広告を実施する場合、新築分譲マンションで求められる表示項目に加えて以下の情報を広告内に明確に記載することが求められます。
- 物件が一棟リノベーションマンションであること
- リノベーション工事の内容
- 当該工事の完了年月(当該工事が完了していない場合は、完了予定年月)
この改正により、リノベーション物件であっても新築に準じた予告広告ができるようになり、購入者が安心して検討できる環境が整えられています。
不動産広告の違反事例3選
上記でご紹介してきた規制を守らず不動産広告を配信した場合、法令や規約にのっとって処分の対象になる場合があります。ここでは実際に発覚した代表的な違反事例を3つ紹介し、どのような点に注意すべきかを解説します。
事例①契約済み物件を掲載し続けた「おとり広告」
ある不動産会社はすでに契約が成立した賃貸物件を3カ月以上にわたりポータルサイト上に掲載し続けていました。この事例は、物件に問い合わせた顧客に別の物件を紹介するという手法が取られており、「おとり広告」に該当します。
消費者を誘導する意図で実在しない情報を用いたことから、厳重な警告と違約金の措置が科されました。
ポイント
- 広告の情報を偽って消費者をだます「おとり広告」で処分される不動産会社は後を絶ちません。
- 意図的におとり広告を出さないことはもちろん、誤解を避けるために掲載している物件情報は常に最新の状態を保ち、成約済みの物件は速やかに削除することが必要です。
事例②架空の値下げを演出した「二重価格表示」
とある不動産会社は「旧価格から〇〇万円値下げ」とうたった不動産広告を出していましたが、実際にはその旧価格で販売された実績は一度もなく、消費者にとって架空の値引きを演出するものとなっていました。
この表記は「不当な二重価格表示」として行政から指導が入り、訂正広告が求められました。
ポイント
値引き表示を行う際には過去にその価格で販売していた実績が必要です。その他、以下の要件を厳守しましょう。
- 過去の販売価格の公表日及び値下げした日を明示すること。
- 比較対照価格に用いる過去の販売価格は、値下げの直前の価格であって、値下げ前2か月以上にわたり実際に販売のために公表していた価格であること。
- 値下げの日から6か月以内に表示するものであること。
- 過去の販売価格の公表日から二重価格表示を実施する日まで物件の価値に同一性が認められるものであること。
- 土地(現況有姿分譲地を除く。)又は建物(共有制リゾートクラブ会員権を除く。)について行う表示であること。
※引用:不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」
二重価格表示は決められた要件を満たす場合にのみ使える広告表示であることを頭に入れ、実際の販売履歴に基づく正確な情報を心がけましょう。
事例③実際の物件と異なる「誤認を招く表記」
広告の内容が実際の物件よりも優良・有利であると誤認される表記は違反と見なされます。実際に、以下のような表記が処分の対象となった事例があります。
- 「角住戸」としながら、実際には片側しか開口がない
- 「2面採光」と記載しているが、実際には採光は1方向のみ
- 「フリーレント1カ月」と表示されているが、実際には一部費用負担が必要
- 「保証料は賃料の50%」としながら、実際は管理費を含んだ金額に対する50%
- 「内装リフォーム済み」と記載されているが、どの範囲をいつ実施したかが不明瞭
ポイント
広告に記載する物件情報は、実際の仕様や契約内容と正確に一致していなければなりません。また、表現の根拠を明確にし、必要に応じて補足説明や注釈を添えることで誤認を防ぐ対策が重要です。
また、表記が異なる場合だけでなく「そもそも記載していない」違反事例も散見されます。必要とされる表示が広告内に含まれているかチェックする体制を整えましょう。
まとめ
不動産広告は物件の魅力を伝えるだけでなく、消費者との信頼関係を築く目的においても非常に重要な手段です。近年はインターネット広告をはじめとしたデジタル領域での表現が多様化しており、規制を遵守した適切な形での運用がますます求められています。
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